2019年度(新型コロナウイルス感染拡大防止施策の影響で2020年6月末まで)に、公益財団法人日本社会福祉弘済会
2019年度社会福祉助成事業としてNPO法人風雷社中が実施した「知的障害者の自立生活を支えるネットワーク・プラットホーム構築事業」の報告書概要と報告会概要をここに記します。
報告集は個人の情報にかかる内容も多いため、テキスト全文の掲載は控えさせていただきます。報告書の入手を希望される方は、このページ下段の申し込みフォームから申し込み下さい。
※部数に限りがあるため、1名1部、1団体1〜5部とさせていただきます。送料に関しましてはご負担いただきたくお願いいたします。
※学習会などで活用される場合は相談の上、部数に関して調整させていただきます。
知的障害者の自立生活を支えるネットワーク・プラットフォーム構築事業
公益財団法人日本社会福祉弘済会2019年度社会福祉助成事業
~はじめに~
特定非営利活動法人風雷社中では、知的障害のある人をメインにして移動支援サービスと居宅介護サービスの提供を行ってきました。支援のひとつには重度知的障害のある青年の自立生活に関するものもあります。これまでの支援の現場で実感していることは、知的障害のある人の意思決定支援のポイントとして、言葉による説明だけではなく、経験を通じた判断をする機会を積極的に作ることが大事だということです。そのためには、本人の可能性を見出して、良質なチャレンジとそれをサポートするインフォーマル含めたサポートが求められると考えています。自立生活もそのひとつのスタイルだと考えています。しかし、現状は現場においてそこまでの支援ができているかというとなかなか難しいのが実態ではないでしょうか。事業所では往々にしてリスク回避として、従前の枠組みの支援にしばられがちであり、本人や家族への支援メニューの幅を広げることに人的資源の余裕がないという現実的な課題と、そこに意識を向き続けることが現状の支援の枠組みだけでは、やはり難しいという実態があるように思います。これは私たちの法人も決して例外ではありません。
そこで、「知的障害のある人の自立生活の声明文プロジェクト」(以下、声明文プロジェクト。付録に詳述があります)というネットワーク組織を有志で立ち上げ、近隣で同様の取り組みを行う福祉職や学識経験者や障害当事者のみなさんと、実践の学びと経験の分かち合いをするための集会を 2016 年頃から行ってきました。おかげさまで、毎回の集会には多くの方が参加をいただき、知的障害のある人の自立生活への関心とこれからの取り組みへの期待を肌で感じています。
今回の取り組みのひとつとして、声明文プロジェクトにもご一緒いただいている田中恵美子さん(東京家政大学)にプロジェクトリーダーとしてご尽力いただき、これまで私たちがカバーできていなかった関西圏の知的障害のある人の自立生活の調査を行っていただきました。また、これまでの事例報告は男性の知的障害のある人の自立生活についての考察が多かったのですが、今回の調査では女性の方の取り組みもより注力をいただきました。ジェンダーと障害については複合的な課題も多く、これからの実践にあたっても大きな示唆をいただけたところかと思います。また、調査の取り組みと並行して、調査の報告と支援の実践に関わる方々などにご登壇いただき集会を 2 回開催いたしました。あいにく新型コロナウィルスの影響があり、2 回目についてはオンラインでの代替開催となりましたが、ともに多くの方々にご来場をいただきました。このような機会を通じて、これまで限定されていた各地域での実践の紹介や課題意識を共有することにもつながりました。知的障害のある人の自立生活に関する支援の絶対数が少ない中では、支援の中身をふりかえることで質的な向上が期待されるところですし、各地域での実践を聞くことで支援のモチベーションにもつながったとの声もいただいているところです。
そして、さらに幸いなことに取り組みを通じて、これから我が子に自立生活を送らせてみたいという親御さんからのお問い合わせをいただく機会が増えてきました。支援についての実践紹介含めた情報のプラットフォームや制度とその運用に関する環境整備に関する政策提言などが次の段階では求められているとますます感じています。そのような取り組みの通過点として、今回このような形で報告書を作成することができました。改めて、今回の取り組みに尽力いただいた田中さんはじめ関係者の皆様と助成をいただいた公益財団法人日本社会福祉弘済会様に厚く御礼申し上げます。
特定非営利活動法人風雷社中 理事長 中村和利
■調査チームリーダーのご紹介■
田中恵美子(東京家政大学人文学部教育福祉学科准教授・女性未来研究所 兼任研究員(2020 年 3 月まで)) 研究テーマは障害者の「自立生活」、知的障害者の結婚・子育て支援、社会における障害の理解(障害の社会モデル)の啓発などで、障害者が地域で暮らす在り方について模索している。
知的障害のある人の自立生活についてのインタビュー調査 概要
■日本自立生活センター(JCIL)
1.組織の概要について
2.日本自立生活センターの支援例
(1)K さん(知的障害と身体障害のある人の場合)
(2)N さん(知的障害のある母との生活からの自立)
3.支援に関わる人へのインタビュー
当事者スタッフから~身体障害と知的障害支援の違い~
4.なんのため?誰のため?相談支援の現状について
5.支給決定あっても、ヘルパー不足は大きな課題
■自立生活夢宙センター
1.組織の概要について
2.自立生活夢宙センターの支援例
(1)S さん(きょうだいのサポートと共に)
3.支援に関わる人からのメッセージ
(1)全面的に自立生活をサポートするために
(2)介助者のフォローを当事者スタッフが行う
(3)地域を変える
■社会福祉法人ぽぽんがぽん
1.組織の概要について
(1)「ぽぽんがぽん」前史
(2)いばらき自立支援センターぽぽんがぽん、そして NPO 法人いばらき自立支援センターへ
2.ぽぽんがぽんの支援例 O さんの場合
(1)O さんの自立生活の始まり
(2)かまれるのは当たり前
(3)日常の生活
(4)本人がしたいことをかなえているか
(5)相談支援?
3.知的障害のある Y さんと A さんの例
(1)あれこれある地域生活を様々な支援で支える
(2)残る難しさ
4.支援に関わる人へのインタビュー
「ぽぽんがぽん」の中心人物①-太田吾郎
「ぽぽんがぽん」の中心人物②-水野昌和さん いばらき自立支援センター「ぽかぽか」 施設長
■認定 NPO 法人クリエイティブサポートレッツ
1.組織の概要について
2.理事長へのインタビュー
~母親がわがままになっていいんだよ~
(1)完璧に用意したけれど
(2)エイブル・アートに出会う
(3)ソーシャル・インクルージョン!
(4)福祉なのかアートなのか⇒福祉+アート
(5)新しい実験
(6)人権
■自立生活企画・グッドライフ
1.組織の概要について
2.自立生活企画・グッドライフの支援
(1)知的障害者の支援の始まり
(2)利用者の特徴
(3)グループホーム・結婚・お金
(4)自立観
(5)視線の介護
(6)知的障害者支援ができない理由・できる理由
(7)これから
3.自立生活企画・グッドライフの支援例
(1)Y さん(精神科病院からの自立)
(2)U さん(普通学校を卒業後に自立生活をスタート)
■ピアサポートみえ
1.組織の概要について
(1)設立の経緯~当事者組織として
(2)現理事長 杉田宏氏
2.現在の支援の状況
(1)「自立生活体験室」について
(2)知的障害のある自立生活者について
3.これから
(1)事業所として
(2)続けていくこと
自立生活を模索している家庭へのインタビュー①
1.幼少期-謎解きの始まり
(1)息子の障害
(2)父のこと
(3)覚悟と仲間
(4)娘の障害
2.児童期-謎の深まりと孤独
(1)不登校
(2)孤独
(3)唯一のつながり
3.青年期-解と希望
(1)つながりが絶たれた
(2)次へ
(3)解
(4)希望
自立生活を模索している家庭へのインタビュー②
1.次郎の誕生
(1)生きてほしい、それだけだった
(2)退院してからの日々
2.決意
(1)別れ
(2)再生
(3)出発
3.成長
(1)こども時代
(2)社会サービスの利用
(3)思春期
4.今、そしてこれから
(1)作業所の仕事よりも大事なこと
(2)専攻科で学ぶ
(3)これから
調査報告会①
調査報告会②
付録
知的障害者の自立生活についての声明文(第二版)だれもが地域で暮らしていくために(抜粋)
~「あとがき」より~
■インタビュー調査を行って
今回、5 都道府県を回り、知的障害のある人たちの自立生活について調査を行う機会に恵まれた。当事者の方と会い、ご家族や支援者の方々にお話を伺って時には感動して涙を流し、時には悔しい思いに憤った。そして日々地域で暮らしていくことの大変さを思った。しかし、誰かが言ったように、地域で暮らすことは大変だけれども不幸ではない。様々な出来事の結果、今ここにいるそれぞれの生活はまだ発展途上で、どう変わっていくのかわからないし、きっとこれからも紆余曲折あって、落ち着くことはないのかもしれない。でもそれが人生なのではないだろうか。もちろん、障害のある人たちの生きづらさを生み出している原因を取り除いていくことは必要だ。そのために力を結集することができたらいいと思っている。そのための資料に、この冊子がなってくれることを心から願っている。
インタビューに快くお答えいただいたすべての皆様に感謝いたします。そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。
田中恵美子(調査事業チームリーダー/東京家政大学人文学部教育福祉学科准教授)
■現場での経験知の共有に期待しています
知的障害者の自立生活声明文プロジェクトの流れから、調査事業と集会開催等に関わる機会をいただきました。自身の精神障害領域のことと時にはオーバーラップさせながら、いろいろな諸問題を考えることができました。特に、当たり前のように使ってきた言葉を疑うということを学んだような気がします。そのひとつに自立とはなにかというものがありました。障害分野における自立というフレーズのルーツは、国際的な障害者運動を牽引してきたアメリカ発祥の身体障害のある人たちの自立生活運動があります。一方で、障害があっても自分で選べるのだ、自分で決められるのだ、そしてその決定に責任が持てるのだというこれまでの自立観では、知的障害や精神障害のある人たちは権利主張するのが難しいともいわれています。なぜなら、学習したら読み書き計算ができて当然、集団行動ができて当然、仕事をもって収入を得て暮らすのが当然といったような期待される近代市民像には、そもそも知的障害や精神障害のある人のことは含みこまれてこなかったからです。そのようなメッセージを現場での支援に関わるひとたちから教えていただきました。
本当の意味での共生社会を考えるとき―そのためには、現代社会の全体像を捉え直し、障害のある人も含めた社会設計と現場の経験知の蓄積が必要に思います。来年には第 1 回障害者権利条約の締約国審査が行われ、脱入所施設の勧告が期待されるところです。一方で、現場のさらなる充実も課題となってきそうです。集会での各報告からは、地域による支給時間数のばらつき、ヘルパー派遣を安定させること、そして虐待防止の取り組みなど、各現場での経験を共有し、学ぶ機会もこれから求められていると感じています。
今回の調査事業では、これから「自立生活」を検討しているファミリーにインタビューを行っています。始まるにあたっての制度や周囲の理解等の障壁についてもコメントが寄せられています。今回の取り組みのようにみなで知恵を絞り前向きな行動を大切にしていきたいと思います。そして、この報告書が一人でも多くの人に届き、一歩を踏み出す勇気になればうれしい限りです。これからも共に頑張りましょう。
山田悠平(報告書編集担当者/精神障害当事者会ポルケ)
報告集希望の方は下記フォームより。